蜆ノ洋技味噌清し汁

上野 修
浪速割烹 㐂川  

蜆出汁をさらに和食の上領域へと発展させる

夏場の土用蜆がいわゆる腹薬とされるなら、味の旬は寒蜆のシーズンということになるだろう。冷凍技術の進んだ現代では冬を待つまでもなく寒蜆を年中味わえることから、これを上手に使えば安定した蜆出汁を昆布鰹出汁の代わとして活かしていくことも可能ではないか。今回の試作にはおそらくそうした狙いも含まれているに違いない。
蜆出汁が味噌と相性がよいことはすでにこれまでの和食の歴史の中で証明されてきている。このことを踏まえながら、ここでは魚の粗と酒、干し椎茸の戻し汁に野菜の皮で先ず出汁をとっている。この出汁で蜆を炊きあげ田舎味噌で調味しているのである。ただこのままでは濃厚な蜆の味噌汁なので、料理屋の料理として卵白を使って清まし汁として仕立てている。
味噌汁の上澄みだけを使うという常の仕事ではなく、味噌汁そのものを透明化させているところに洋技に通じるところがあるのだろう出汁に使った蜆は鯛ノ白子真薯で貝身を寄せている。さらに旬の石蓴を入れた玉子豆腐と炊き上げた干し椎茸を共に椀盛りとしている。味噌との相性だけで完結させていた蜆出汁を、さらに和食の上の領域へと発展させた試みだといえよう。

総評

「昆布も鰹も使わずにこれだけの出汁が引けるとは驚き」「椀が見事に澄んでいるのが信じられない」といった賛辞が多く寄せられていた。参加会員からは卵白を使った洋の透明化に対する質問が何度もなされ上野修氏から具体的な手法についての説明がなされた。畑会長からは「見事な完成度であると同時に、貝類独特な淡い濁り感というものも、それはそれであってもよいではないか」とするコメントがなされていた。

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