「鼈(すっぽん)」「鼈出汁」

辻 宏弥
法善寺 浅草  

すっぽんと冬瓜の摺り流し仕立て

日に日に暑さが増し、夏を越す備えを、と考えるこの時期。滋養のあるすっぽんを、大阪では好んで食してきた。店では冬はフグ、夏はすっぽんを主に料っている辻さんが、専門店主として今回提案するのは、豊かなだしの味わいを生かした“節約料理”。「当店では、1匹1㎏程度で600~700gのだしをとります。高価なだしなので、たっぷり使うと高級料理になってしまう。そこで少量を効果的に用いて、端身なども生かした大阪的な一品を考えてみました」。
「冬は大根や蕪、秋はエノキ茸などを使いますが、初夏なので冬瓜で作ってみました」という摺り流し。すっぽんだしと昆布だしを合わせ、淡口醤油で加減して冬瓜を炊き、白い部分だけを煮汁とミキサーにかける。生椎茸は砂糖水に漬けて水分を抜いてから冷凍し、冬瓜と同様に炊き、驚くほど柔らかな食感に。その椎茸に、すっぽんの端身をほぐし、すり身と合わせた真丈地をつけて椀種とする。さらに、『浅草』の人気の一品、すっぽんのみたらし団子に使う白玉を焼いて添え、白髪ネギに振り柚子で。

すっぽん玉蒸し

「鍋の後の雑炊の美味しさを一品料理で表現できないか?」と挑んだ意欲作。茶碗蒸しの中に飯蒸しを潜ませ、ネギの旨みをたっぷり加えたすっぽんだしの餡をかけている。摺り流しが淡味であったのに対して、こちらは濃厚な味わいだ。
もち米を太白胡麻油で炒め、昆布だしとすっぽんだしを注ぎ入れ、すっぽんの端身も加えて飯蒸しに。これを器に入れ、茶碗蒸しの地を流して蒸し上げる。「あんのすっぽんだしを主張させたいので」、茶碗蒸しには昆布だしを合わせて淡口醤油・塩で塩梅。仕上げに、すっぽんだしで白ネギの青い部分を煮て漉し、葛を引いたあんをかけている。

総評

摺り流しは「すっぽんの姿が見えないのに、すっぽんの味がするのが面白い」と好評。あえて淡味に仕上げたことで、白玉の焼き目の香ばしさや、椎茸の柔らかさが際立っているという意見が多かった。「椀物に椎茸を使う場合は、焼くなどして食感を立たせることが多い中、この柔らかさは新鮮」という声も。
一方、玉蒸しは、飯蒸しの食感に質問が寄せられ、「油で炒めて蒸し上げた」との答えに、賛否両論。雑炊がテーマということで、一粒ずつほどける感じが面白いという意見と、油の風味がすっぽんの印象を少し弱めているとの意見が聞かれた。飯蒸しやおこわの最適な水加減についてのコメントが会員から次々と発表され、有意義なやりとりがなされた。
畑会長は、「すっぽんの醍醐味は、だしにある。臭みもなく、きれいなだしで、専門店の底力を感じた。摺り流しは、すっきりした仕立てで実に上品。対して、飯蒸しは、こってりしていて濃厚。その二つの提案も面白かった。卵、餅(白玉)、ネギとの相性のよさを改めて知る二品であった」と締めくくった。

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